ノーベル医学生理学賞大村先生の「人のために」精神

公開日: 2016年01月20日
著者: yakujiman
Yakujiman
プロフィール
  • yakujiman
  • 製薬会社の学術関連部門・薬事関連部門にて、製品の学術資料・パンフレットの作成、通知・通達のチェックと情報収集、添付文書・製品表示の原稿作成、製品広告のチェック等の仕事をしてきました薬剤師です。関連する業界の情報等を集め、管理薬剤師のためのマニュアル等の作成も行ってきました。今まで携わっていた製品は、医療用医薬品・一般用医薬品の他にも、医薬部外品・化粧品、サプリメント、衛生雑貨、試薬といった幅広い分野に渡っています。
2015年10月、ノーベル賞の中では最初に発表となったノーベル医学生理学賞に、北里大特別栄誉教授の大村智先生が輝いたというニュースが飛び込んできました。受賞内容は、寄生虫病の治療薬である「イベルメクチン」をアイルランドのキャンベルさんとともに開発し、患者をオンコセルカ症による失明の危機から救ったという功績が評価されたものでした。オンコセルカ症は日本ではなじみがなく、ほとんどの方が初めて耳にした名前だと思いますが、アフリカ南部のサハラ以南や熱帯地域では最もよくみられている感染症になっていて、世界では約1,800万人もの人がこのオンコセルカ症になっていて、27万人が失明、50万人が視覚障害になっていると言われています。

イベルメクチンが回虫に効くしくみとは

イベルメクチンは、日本では商品名ストロメクトールでMSD-マルホから出されています。効能を見てみると「腸管糞線虫症、疥癬」となっています。病原微生物は、ウイルスと細菌、そして真核細胞生物に分類され、真核細胞生物の中には水虫などの原因となる真菌や原生動物、昆虫や蜘蛛などの節足動物、回虫などの線形動物などがあります。イベルメクチンは真核細胞生物の中の節足動物と回虫をはじめとした線形動物の寄生虫に効果を発揮します。イベルメクチンの効き方は、回虫などの線形動物の神経・筋肉細胞に作用することで、回虫などの寄生虫の細胞膜にあるグルタミン酸作動性クロライドチャンネルという抑制系として働いているチャンネルに働きます。イベルメクチンは、寄生虫の細胞膜のクロライドチャンネルに働き、この抑制系のチャンネルを開くことにより細胞膜の外にあった塩素イオンを細胞内に流入させ、寄生虫の神経細胞や筋細胞を麻痺させることで寄生虫が抑えられるというしくみになっています。ヒトをはじめとした哺乳類ではこのグルタミン酸作動性クロライドチャンネルがないので、ヒトの細胞は影響を受けることなく寄生虫だけが抑制されていきます。

科学者は人のためにやることが大事

偉大な功績を残した大村先生ですが、地元で科学スクールを開いたり、美術館や温泉施設を建てたりするなどの社会活動にも貢献されています。また医学部でも薬学部でもない山梨大学芸学部自然科学科という異色の経歴を持っていることも知られています。大学卒業後に高校の教師をやりながら猛勉強し、東京理科大大学院の修士課程に入学し研究を重ねていったノーベル賞受賞者の大村先生を支えた祖母からの教えが、「科学者は人のためにやることが大事」という言葉でした。会見でも「私自身は微生物がやってくれた仕事を整理しただけ。科学者は人のためにやることが大事だ、という思いでやってきた。」と語っています。疥癬の治療や家畜の駆虫薬としても使われているイベルメクチンは、多くの人を失明から救ってきましたが、ノーベル賞受賞となったのは、もちろんこうしたイベルメクチンの素晴らしい効果によるものですが、特許料は食べるだけで十分と、メルクと話し合いワクチンを無償提供しただけでなく、社会活動にも貢献したという精神こそが、ノーベル賞を受賞するのにふさわしいとも言えるのかもしれません。
このエントリーをはてなブックマークに追加
Crown 転職サイト比較 ランキング